■トリカゴ
鳥は何処で飛び方を覚えたのだろう。
その両翼を羽ばたかせる術を何時得たのだろう。
ナンセンス。
鳥は鳥であるから飛べるのだ。鳥は自身が鳥であるために飛ぶのだ。
飛べるから飛ぶ。ただそれだけ。
だとすれば、翼を持たぬ存在は飛ぶことを許されない。
この世に理が生まれたその瞬間に、翼を持たぬものは飛べないと定義づけられた。
地を這う。
翼ある者は飛ぶことを定義づけられた。
大空を舞う。
だとしたら、私は?
「──祐巳さんは適当にくつろいでて。今、お茶淹れてくるから」
「ありがと、由乃さん」
祐巳さんにクッションを勧めてから、私は自室を出る。心は不思議な高揚感に満たされている。
この場所なら誰にも邪魔されないから。
祥子さまにも、志摩子さんにも、祐巳さんの妹候補生たちにも。
私だけの。
名目上は、ついこないだに敢行した、妹オーディションの打ち上げ会である。
当然あの件の関係者、もちろん私たちを含む大勢での打ち上げ紛いのことはすでに行われている。
思い出話笑い話に華が咲き、時間を忘れるほどに楽しいひと時だったのをよく覚えているが、私にとっては所詮枝葉だった。
私たち二人が二人で居ること以外に、どんな意義があるのだろう。
気が付けばお茶の準備は整っている。
つとめて淡々と、お盆に二人分のお茶と茶請けなど載せていく。
そう、平静でなければいけない。自然でなければいけない。
私たちがありのままに健やかに関係を保つためには、つとめて平静に自然に振舞わなければいけない。
踏み出してしまえば、きっと壊れるから。
未完。
解説
この後、由乃さんは祐巳のまったりした優しさ的な何かに触れて、現実に引き戻されます。やっぱり今のままの関係がいいと。え、今のまま? 祐巳さんをこうしてトリカゴの中に閉じ込めておくような? と由乃さんは悩み、結局悩んだまま。最後に、トリカゴの中にいるのは私なのかも知れないと不意に思い、そして締め、と。実に不穏当なSSです。
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