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キミはボクに似ている


 ここのところ島津由乃は、物思いに耽っている時間が多い。
 元来先手先手で、考えるよりも先ず行動するという性格の持ち主である彼女だったが、姉の見合いの相手に”宣戦布告”されたことや、あの有馬菜々の印象が鮮烈で、考える事は多いのにそれが散漫になりすぎて、彼女の内で思考が集中されないのだ。
 だから今日も彼女は薔薇の館に一人残り、静かに穏やかに、苦い緑茶を啜っている。
 普段は周囲の人間jに合わせてコーヒーか、紅茶を飲むのだが、もともとは和風贔屓なのが彼女であった。

 ──それは兎も角。

 一年と少し前も、同じように彼女は思い悩む事が多かった。姉との関係を自らに問い詰め、追い込み、這うようにして辿り着いた先にあったのは、ロザリオを返上するという強制終了──その後の再起動の成功確率が未知数という、前代未聞の荒業だった。

 だから。
 だから、あの時の息の詰まるような思考、さながら密室のように成り果てた思考に比べれば、何処まで辿り着けるのか知れない宇宙遊泳のような今の思考は、由乃にとっては純粋に楽しいものだった。

 それを娯楽と呼ぶのは、あの姉の見合い相手の男の子や、有馬菜々にとっては不敬に当たるかもしれないのだが、それでもあの頃の自分はベッドの上に拘束されて、そして今は自由自在に、気持ちも、身体も、何処へでも飛び立てる。
 それを思えば、自身の悩みや迷いそのものを、娯楽と称する彼女の考えも、無理のないところであった。


 下校時刻を告げる放送を聞き、由乃は薔薇の館を後にした。
「それにしても……」
 最近薔薇の館に残るようになって意識し始めたのだが、薔薇の館の玄関の扉には、俗に鍵と呼ばれるものが存在しない。
 薔薇の館に金目のものなど置いてないし、生徒の中に不埒な事を考える者などいないだろうが、それでもセキュリティ的にどうなのかな、と由乃は一抹に思う。

 既にあらかたの運動部がその活動を終了し閑散としている校庭を抜け、マリア像の前まで来た由乃は、そこに見知った顔を見つけて歩みを止めた。
 その人物と目が合っていたのは一瞬だった。向こうがその視線を逸らし、身を翻して行こうとしたからだ。やれやれと由乃は零し、苦笑しつつもその人物に声を掛けた。
 その人物が自分──ひいては現在の山百合会のメンバー誰とも会いたがらないことは気付いていたが、それでもそのまま彼女を手の届かないところに行かせるのには若干の躊躇いがあった。

 どうせ彼女は自分の言う事などに耳を貸さないだろう。「何でもありません。お構いなく」、とつれなく返されるのは目に見えているのだが、出来る事なら彼女──一年前の自分のように悩み迷っている彼女を救ってやりたいと由乃は思う。
 ”つぼみの妹”、と、”つぼみ”、という、かつてと今の立場の差から生まれる義務感か、それともただ単に下級生にお節介を焼きたいだけなのか。
 気が合うとはお世辞にも言いがたい下級生に率先して声を掛けるなど、自分も随分変わったなという感慨が、由乃の内に湧き上っていた。

「ごきげんよう、瞳子ちゃん。部活動お疲れ様」
「──由乃さま」

 にこりともしないで振り向いたのは、二ヶ月ほど前には率先して薔薇の館に手伝いに来ていた、あの松平瞳子だった。
 由乃が松平瞳子という一年生のことを知ったのは、今年の春先の事である。小笠原祥子のことを無遠慮に、『祥子お姉さま』、と呼び、祐巳さんを小馬鹿にしたような態度を取り、暇さえあれば薔薇の館に出入りをしていた。物怖じしない子、という印象が彼女にはあった。
 きっとあの頃は、何の気負いも無かったからだろう。
 友達のため、とうそぶいて窃盗まがいのことをしでかし、マリア祭では随分と無茶をしていた。その所為で彼女は一躍有名人となり、周囲に色眼鏡で見られるようになった。
 あの頃はそれを気にも止めていなかっただろう。周りにどう思われようが、私は私。周りは周りで勝手にやればいい。そんな風に思っていたのかもしれない。
 けれど、今は──?

「な〜んか、最近私らのこと避けてない? 私と仲良くしろとは言わないけど、たまには薔薇の館に顔出しなさいよ。祐巳さんが寂しがってるわよ」
 高圧的に出て挑発してもよかったのだが、思うところがあって由乃は精一杯下手に出る事にした。
「……用も無いのに出入りするのは、他の生徒にいい影響を与えるとは思えませんし」
「ふうん、まあ、一理あるわね」

 用も無いのに頻繁に出入りしていたのは何処の誰だったか。
 他の生徒への影響を考えたら、マリア祭で大立ち回りは出来ないわよね。
 それに、祐巳さんが寂しがってたってとこは、スルー?

 瞳子の言い訳に対して、いくつもの突っ込みが由乃の内に浮かんでは消えたが、ここで突っ込んで挑発してしまっては元の木阿弥だ。憎まれ口を叩きあいたくて瞳子に声を掛けたわけではないのだから。
 そのあたりをぐっと堪え、由乃



未完

解説
 おそらくこの後、由乃さんと瞳子の間で共感のようなものが生まれ、少しだけ本音で話し合う。ほんの少しだけ。で、お互いに申し訳程度に、頑張ってとエールを送りあって別れ、そして締め、という風になったはずだけど……。
 それでは余りに作品として弱い。何か別の要素があったのかも知れません。







▲マリア様がみてる