■お姉さま方の密談


「ねえ、祥子」
「令、どうかして?」
 リリアン女学園、秋の体育祭も無事終えて──。
 紅薔薇、黄薔薇の二人、小笠原祥子と支倉令は、いつものように雑務に追われていた。そんな中、いつもと違うことといえば、若い四人が居ないこと。
 今薔薇の館に居るのは、年長の薔薇さま二人のみであった。
「失礼ね。私たちも十二分に若くってよ」
「?どうしたの、祥子」
「なんでもないわ。ところで、さっきの続き」
「ああ。こないだの体育祭でさ、久しぶりにお姉さまに会ったのよ」
「江利子さまに?」
 江利子というのは、支倉令の姉で、つまりは先代の黄薔薇さま。本名鳥居江利子。ここ数年の山百合会メンバーの中では、相当な曲者の部類に入る──。
 それは置いておくとして。
「で、江利子さまが、どうかして?」
「それがさ、私たちが、どうしてあの人たちの妹に選ばれたかってこと」
「令の場合は物珍しさ。私の場合は、放っておけなかった。そう、本人たちが仰ってたじゃない」
「それは表向きでしょ。私たちは本当の理由を知っている。けどま面倒くさいから、部外者には、今祥子が言ったとおりに説明してただけ」
 祥子と令が彼女らの妹になった、本当の理由。
「ま、それは置いておくとしてだ」
 置いておくとして。
「あの人たち…江利子さまと蓉子さまね。私たち妹をだしにして、妙な勝負事してたみたいよ」
「妙な勝負事?」
 時はしばらく遡る。
「ねえ、蓉子」
「江利子、どうかして?」
 ここはリリアン女学園、薔薇の館。
 紅薔薇さまの水野蓉子と、黄薔薇さまの鳥居江利子は、周囲に誰も居ないことをいいことに、密やかに密談を交わしていた。
「密談という時点で、既に密やかなのよ。日本語の使い方が正しくないわ」
「?どうしたの、蓉子」
「なんでもないわ。ところで、さっきの続き」
「ええ。私たちの妹…令と祥子ね。下級生に結構な人気があるじゃない」
「結構なことね」
 才色兼備の祥子。ジャニーズ顔負けの令。ミーハーな女の子たちの支持を得てしかるべき存在ではある。
「でね、勝負しない?私とあなたの一騎討ち」
「祥子と令の話じゃなかったかしら」
「話は最後まで聞きなさいってば。彼女たちが薔薇さまになったときに、どちらが下級生の人気を獲得しているか、勝負しない?ってこと」
「相変わらず俗っぽいこと言うわね」
「いいじゃない。下級生の支持を得るのも、山百合会の薔薇さまの、必須事項じゃないかしら。違って?」
「モノは言いようね。で、自分の妹に色々と世話を焼いて、立派に下級生を虜にできる薔薇さまになれるよう導きましょうってこと?妹育成ゲームじゃあるまいし」
「…あなたも充分俗っぽいわよ」
 自由気ままな佐藤聖に、こういうときだけやる気を見せる鳥居江利子。嗚呼、哀れ苦労人水野蓉子。
「そうね。聖の名前が出たことだし。勝った方には、賞品として、佐藤聖@ロサ・ギガンティアってのはどう?」
「@言うな」
「で、どう?あなたにとっては悪くない条件だと思うけど」
 目を輝かせる江利子。対照的に蓉子は、どこまでも冷静に、こう言い放った。
「くだらないわ」
 再び時は現代。
 一通り令の話を聞いた祥子は、呆れたように言った。
「勝負が始まってないじゃない。大体蓉子さまがそんな下種な真似されるはずがないわ」
「まぁね。でもさ、勝負の行方は、やっぱ当事者の妹としては気にならない?」
 令はあくまで能天気だ。対して祥子は、鬱陶しげに長い黒髪をかき上げて、さも興味がなさそうにこう言った。
「くだらないわ」
「言うと思った」


 了






▲マリア様がみてる