■あとがき


というわけで、足掛け25年に渡った、『マリア様がみてる』は、これにて一応の完結です。
元々は雑誌のコバルトに掲載された短編、『銀杏の中の桜』、という読みきり短編(当時はそういう扱いだったの)で好評をいただきまして、そこから半年時間軸を戻してシリーズ化したのがこの、マリア様がみてる、でした。
いやあ長かった、本当に長かった。
当時第一巻を読んでくれた子たちも、今では一家を切り盛りするお母さん、或いは働き盛りのお父さんになっていたりするのでしょうね。かくいう今野も……いやいや、おばあちゃんの繰り言なんて誰も聞きたくないでしょうし。

連載していた間、本当にたくさんのお手紙をいただきました。その中にはマリみてへの質問も、勿論たくさん含まれていたわけでして。頂いた当時はいろんな事情によりお答えできなかったものに関して、まずは答えさせていただこうかと思います。

Q1
本当は、『パラソルをさして』、でシリーズ完結の予定でした?
A1
はい、そうです。第二巻の発行が決定したときに、シリーズものとしての大まかなお話の流れを、担当の編集さんたちと打ち合わせて決定しまして。そのときは、パラソルをさして、までの流れしか作っていなかったのですね。便宜上、六期に大まかに分けられるマリみてですが、パラソルをさしてまでが第一期に当たります。

Q2
第一期、第二期の主人公の祐巳ちゃんの妹が、瞳子でも可南子でもなくあの子になったのは、どうしてですか?
A2
もう二十年近く昔の事なので、その当時自分が何を考えていたのかちょっとうろ覚えなのですが……。
瞳子ちゃんは元々、祐巳の妹にするつもりで作ったキャラクターではないのです。対して可南子ちゃんも、一年生時に、”上級生に憧れる主人公”であった祐巳が、進級して今度は上級生となった。とすると、”憧れられる主人公”と位置付ける必要もあったわけです。それが可南子というキャラクターの発端だったわけで。決して祐巳の妹として作ったキャラクターではないのですね。

Q3
まさか第五、第六期の主人公が桂さんだとは思いませんでした。
A3
はい。実は私もびっくりです。
第四期と第五期の間には、3年間のマリみて封印期間があったのは周知の事実ですが、あれは当時の公式コメントにある通り、マンネリ化して飽和した、マリみてというものに対するパブリックイメージの解消のための期間だったわけで。
だとすると、第一、第二と同じ方法論で書いた第三、第四期と。それらと同じ書き方では上手くない。そこで第五期からの主人公の選抜投票を一般レベルで開催して、結果選ばれたのが桂さんだったのですね。ほんと、予想外の結果だったのですけど。
もともと桂さんには隠し設定のようなものが沢山あって、実際に本編で活用した、”こっそり志摩子さんに憧れてる”とか、”さまざまな時間軸を越えて遍在する”とか、それらのほかにも山と設定だけは先行していたので、書く側としても願ったり叶ったりだったわけですが。


本当はもっと沢山の楽しい質問があったのですが、紙面の関係でこのくらいで。
最後に、私自身から私へと質問をしてみたいと思います。

Q4
『マリア様がみてる』って、結局今野さんにとっては何だったのでしょう?
A4
仕事です……っておいおい、それじゃあ夢がなさ過ぎるって。
でもほんと、何だったのでしょう。長いことは長いシリーズで、まさか文庫冊数三桁の大台に突入するとは予想だにしていなかったわけですが。でも今では三桁発刊は珍しくないですし。ついこの間、栗本先生のグインサーガも200巻突破しましたしね。ガンダムシードも5シリーズ目ですし、こち亀も……。とまあ、それは兎も角。
シリーズを通した主人公は、やっぱり福沢祐巳ちゃんだったんだと思います。第一、第二期では主人公として西へ東へ大奔走。みんなが祐巳ちゃんを愛してくれて、でもそれに対して図に乗った祐巳ちゃんはみんなに徐々に冷たくされるようになり……。
対して第三期、第四期では主人公の座を妹に譲った祐巳ちゃんですが、その影響力は計り知れなく。姉を超えられない苦しみ。周囲からの祐巳と比較する視線。姉はもっと凄かった。姉はもっと愛された。姉はもっと……と、それらの黒い情念に祐巳の妹は負けそうになってしまう。けれど祐巳は無自覚に(自覚あり?)優しくて──と、祐巳の影響力というのはやはり、とても大きいものだったのだと思います。
対して第五、第六期では桂さんを主人公に据えた時空跳躍ものとして、マリみての舞台裏を過去へ未来へ昨日へ今日へと奔走し、因果のつじつまを合わせていきます。まあ、時間はともかく空間を超越すると記憶は粒子化するので、ノイマン境界を越えられない記憶は置き去りにされ、桂さんはその都度、「あれ、ここどこ?」とお間抜けなことを言うわけですが……。
賛否両論あった第五期以降ですがやはり、最後は、非常にマリみてらしく締める事が出来たので、これはこれでよかったかな、とも思います。

アニメ化、ドラマCD化、そして漫画化に始まって、月9ドラマとして、ゲームとして、そしてハリウッドで映画化して。ほんと、マリア様がみてるって、幸せ者だったと思います。
こうして本編は108巻にて完結し、私の手を離れました。ネットの方を覗くと、今でもSSやCGを書いてくださってる方が沢山いらして、もう20年くらい書かれてる方も中にはいらっしゃるようで。他人事のように、マリみてって凄かったんだなあ、と思わされてしまいます。
私も、最後には、つまり今からですが、これからは一人のマリみて好きとして、『マリア様がみてる』、を大切にしていこうかなと思います。

だから最後は、原作者としてマリア様がみてるにサヨナラを。そして、一人のファンとして、マリア様がみてるにコンニチワを。そういう意味を込めて、

それでは、ごきげんよう。







▲マリア様がみてる